オルゴールは透明で綺麗な音を紡ぐ。 胸をしめつけられるような郷愁の想いがつまったメロデイは私を慰めてくれる。 (それにしても今も澄んだ音色を奏でているのは財前様が大切にしてきたからね) ――午後十時 今日も財前様は遅くまで仕事。 (私を大切にしてくれているのは分っているけれどやはり寂しいものだわ) ため息をついて窓の外を眺めた。 空を見上げれば星が夜空を彩っていた。 暫く見上げていると自動車のエンジンの音がした。 胸に嬉しさがこみ上げて顔が綻ぶ。 暫くしてドアが開き、財前様の姿が見えたのを確認して私はお辞儀をする。 「おかえりなさい」 財前様は優しく微笑む。 「今日も私を待っていたのか」 「ええ。今日のお帰りは早くて嬉しゅうございます」 私は伏し目がちに憂いをかくすように言った。 両親が家に不在の幼い頃からから待つ寂しさは知っていた。 けれど、夫を待つ寂しさはまた違う気持ちだ。 「私の帰る時間は不定期なので先に休んでいいと……」 「あなたが仕事を頑張っているのに私だけ先に休めませんわ!」 「しかし、は若いから生活習慣を整えた方がいい。朝もいつも起きにくそうにしている」 「そ、そのうち慣れますわ」 財前様はため息をつき、有無を言わせぬ表情でいった。 「私が、午後十一時にまで私が帰らなかったら先に休むように! 今日も私は疲れているので今から部屋で休む、も休みなさい」 「……ええ」 (財前様は私を子供扱いする……もう財前様の妻となって一ヶ月経つのに) 財前様はオルゴールに目を移す。 「……またオルゴールを聞いていたのか」 オルゴールの箱はまだ開いたままだった。 ぜんまい仕掛けで回すと回した分音色を奏ででくれる。 円盤の入った木箱は28cmくらい、独逸製の年代ものだ。 財前様のお母様が、幼い財前様と別れる時に渡されたものだという。 「ええ、このオルゴールは優しい音色で気が紛れますわ」 (私の寂しさを紛らせてくれるこのオルゴールは、きっと財前様の心も慰めていた) 「そうか……しかし私は良き夫ではないな」 「そんなことはありませんわ。家の中を守るのは私の役目ですもの。 そしてあなたは家を外から守って下さるのでしょう?」 寂しさがないといえば嘘になるけれど今は財前様の……夫の気持ちを通じ合えている。 それを感じられるからきっと寂しさも乗り越えられる。 「ああ」 私は微笑み、財前様が頷く。 「、これを」 財前様は鞄から大事そうに薄い三枚の小箱を取り出した。 「なんですの?」 「開けてみなさい。ああ、指紋はつけないように」 蓋を開けるとオルゴールの円盤が紙に包まれていた。 「まあ! これは!」 「貿易商から購入したものだ。」 「……嬉しゅうございます!」 こみ上げる喜びに胸が詰まって涙がでそうだ。 「ありがとうございます。大切に致しますわ」 このオルゴールは年代物で本体どころか、ディスクである円盤も高価なだけででなく、 入手も困難だと財前様のお母様から聞いている。 (それを購入してくれたのは私の為だという事は聞かずともわかる でも言葉に出して言うことは大事だから……) 「愛していますわ。……あなた」 私は満面の笑みで感謝とこみ上げる財前様への愛おしさを表現する。 財前様の手が伸び、私の頬をそっとなで、私の鼓動はドキンと跳ねる。 「その笑顔が見たかった。ここ最近どこか寂しそうしていたからな」 「私は……」 言いかける言葉をのみこで私はうつむく。 (私はもっと財前様と一緒に居たい……けれどそれはただの我儘だわ) 「私はいまさら生き方を変えられない、だが……」 財前様は言いよどむ。 「なんですの?」 「……君を愛している」 優しく、恋の情熱をもった眼差しでその碧い瞳に私を映す。 ドキドキと胸が高鳴って仕方がない。 きっと顔は赤くなっている。 そんな私に財前様は引き寄せ優しい口づけを落とした end |
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